top of page

#17 人と自然のリズム

フィンランド/ポルボーに住む 友人であり、デザイン、写真、アート、子育て等に関わる

今もチラシのデザイン、アーティストの撮影、通訳などマルチに依頼する関係。

フィンランドの移り変わる景色、生活事情などとても面白いのでコラム書いて頂きました。


喜びと寂しさの同居する夏至祭

Juhannusruus(ユハンヌスルース)夏至のバラ

北欧の暗い冬と明るい夏は、実に対照的です。 国土の75%が森に覆われ、18万を超える数の湖を有するフィンランドで、人は自然のリズ ムに適応して生きています。 長く寒い冬に耐え、雪が溶けると、次々と咲き誇る小さな花々と共に春の訪れを喜びま す。みるみるうちに日が長くなって、まだ夏の盛りを迎える前に夏至が訪れます。長い夏 休みには太陽の光をたくさん浴びて、紅葉の美しい短い秋に、また次の冬支度にとりかか ります。 光を存分に浴びることができる喜びと、これからまた暗い冬に向かう寂しさとが同居する のが、夏至祭です。


今年はKokkoを焚くことができるか

Kokko(コッコ)夏至祭の焚き火

フィンランドに越して来てわずか5年の私にすら、肌で感じられるほど、気候の変化は顕 著です。夏は猛暑の日が増え、冬はパキンと凍る極寒の日が少なくなっています。 去年は、夏至が近づく頃に気温が高く乾燥していて、森林火災の危険性が高まったため に、多くの場所で夏至祭の焚き火 Kokko(コッコ)を燃やすことができませんでした。 また冬は、南部では雪が残らず、川も海も凍らず、待っていた冬はやってきませんでし た。 この自然の変化のスピードに、森に生きる植物や動物たちはついてくることができないで しょう。熟す前に乾いて萎れたブルーベリーの若い実や、季節外れの渡り鳥が飛んでいる のを見ると、憂慮に耐えません。


そして、背中をぽんと叩いてくれるのが企業のユニークな取り組みを3つご紹介します。


①使用済み食器の生きる道

フィンランドを代表する陶磁器ブランド、ARABIA アラビアを有する Iittala イッタラ社 は、昨年3月に「Anna astioille uusi elämä/器に新たな命を」というスローガンで、ユ ーズド品の買い取り販売事業を始めました。


アラビアの陶磁器やイッタラのガラス食器は、多くの家庭で日常的に使われています。と りわけ古い製品は蒐集品としての価値が高く、世界中に熱心なコレクターがいるほどの人 気です。 フィンランドではセカンドハンドショップが充実していて、食器でも衣類でも、ユーズド 品を安く購入して使うことにあまり抵抗はありません。オンラインの個人間取引も活発で す。価値ある品が次の人へ、次の人へと様々な持ち主の手を渡りながら長く愛されていく のです。 それを後押しするような取り組みを、イッタラ社が始めました。

アラビアやイッタラの全直営店に使用済みの食器を持ち込むと、その場で状態が確認さ れ、AランクかBランクか(または処分品としてリサイクルに回すかどうか)で買い取り価 格が決められます。種類と大きさと状態によって、買取価格/販売価格は一律に設定され ています。 そして食器にAとBで色分けされたシールが貼られて、店内の一角にあるVintageコーナー の棚に並べられ、そのまま他の新しい製品と共にお店で販売されます。 実にシンプルです。 他のブランドの製品や壊れた食器でも、処分品として無料で受け取ってもらえます。

 買い取りプロセス → そして「Vintageコーナー」へ


②ファッツェルのパンをかしこく買う方法

深い青のパッケージのチョコレートで知られる Fazer ファッツェル社は、フィンランド食 品業界の最大手の一つです。お土産でよく見るチョコレートやサルミアッキなどのお菓子 以外に、パンも作っています。 「Fazer Kiireetön」(kiireetön:急がない、余裕のあるという意味)というブランド名 で、手作りにこだった、高品質で美味しく長持ちするパンを作っています。大きなスーパ ーにはインストアベーカリーを設け、焼き立てを提供することにもこだわっています。

午前中にスーパーに行くと、「Hävikkitalkoot(ヒュヴィッキタルコート)」と書かれた 緑の什器を目にします。ここに並べられたファッツェルのパンは前日に焼かれたもので、 1つあたり約300~600円くらいの商品です。 それがなんと、どれでも3つで3ユーロ(約370円)!備え付けの紙袋に好きな商品を詰 めて、そのままスーパーのレジでお会計。紙袋にバーコードが印刷されています。 前日に焼かれたばかりの、まだ新しいパンを定価の6~8割で購入できるなんて、オイシ イです。

この「Hävikkitalkoot」はフードロスを減らすことを目的にしたファッツェル社の事業の 一環で、2018年11月に始まりました。世界で作られる食品の3分の1は消費されずに破棄 されています。紙袋にはファッツェルが他にどんな取り組みをしているかも書かれていま す。 仕方がなく割引された古い食品を買う、のではなく、ファッツェルは、「それは意味のあ る選択です。一緒にフードロスを減らしましょう!」と伝えています。


③フィンランド人は知恵人

最近、フィンランド郵便局が提供している梱包材が様変わりしました。 ダンボール箱にはこんなことが書かれています。

「この箱は以前のものに比べて3分の1の重さで、2倍の強度があります。カーボン・ニ ュートラルな方法で発送して、再利用して、そしてリサイクルしてください。」

ただデザインや素材が変わったのではなく、消費者に梱包材のリユースを促している点が ユニークです。使用済みの箱には住所が書かれているのに。 フィンランド国内でオンラインの個人間取引をすると気がつくのは、包装資材にほとんど お金をかけないということです。封筒やダンボールの再利用は当たり前で、一般的な茶色 いダンボールだけでなく、家電製品や靴やお菓子の箱もそのまま使われます。緩衝材にも プチプチや新聞紙だけでなく使用済みタオルやキッチンペーパーが使われれいたり、紙お むつやズボンやスカート(!)に包まれたものが届いたこともありました。 フィンランド人の知恵はすばらしい。体裁は気にせず、その時に家にあったものを使うの です。それが当たり前なので、受け取る方も「失礼だ」と憤ることはありません。 もしかすると郵便局の梱包材に書かれたメッセージには、フィンランドの人は、郵便局は いまさら何を言ってるんだ、と思うかもしれません。


我々はスポットライトを浴びている

これらのような、長く使う、ゴミを減らす、資源を無駄にしないという取り組みは、もう 既にフィンランドの人の行動に根付いているものかもしれません。 しかし、あえてフィンランドを代表する企業たちが、“価値ある行動"としてそれらにスポ ットライトを当てることで、私たちの環境への配慮を讃え、ポジティブに促し、私たちも 一緒により良い未来をつくりたい!というメッセージを発信しているのです。 フィンランドには他にも、環境問題や社会問題に目を向けた、私たちの意識を変えるよう なすばらしい取り組みがたーくさんあります。


小鳥のさえずる美しい緑の森で、心地いい空気に身を委ねて過ごす白夜の夏を、これから もずっと楽しめますように。




bottom of page