top of page

♯19 北欧最大のフォークフェスティバルの今年...。

毎年7月フィンランドで開催される北欧最大のフォークフェスティバル『カウスティネン・フォークミュージック・フェスティバル』 。今年コロナでどうなるのか?! 北欧音楽にかかわる人々の最大の関心事でした。

今年はオンラインで ヴァーチャル・カウスティネンとして開催することを発表。そのコンテンツの内容と数の充実ぶりがスゴすぎて、見どころが分からないほど。


本来、このフェスに参加予定だった 北海道のカンテレ奏者 あらひろこさんに、HPと映像のガイドをお願いしました。あらさんは、私たちが北欧音楽に関わるずっと前からカンテレ奏者として日本の北欧シーンを牽引されてこられた方です。


■あらひろこHP ▷ https://white.ap.teacup.com/kantele/


今年リアルな開催は叶いませんでしたが、これだけのアーカイブを残せたことは きっと今後の北欧音楽の宝になると思います。


+++++++++++++++++++

カウスティネンは、フィンランド中西部に位置する人口4000人ほどの町で、毎年7月に北欧で最大のフォークミュージックとフォークダンスの祭典、カウスティネン・フォークミュージック・フェスティバルが開催されることで知られています。フェスティバルは1968年に初めて開催され、そのときは6000人の見込みに対して3倍の観客が集まったのだそうです。今ではフェスティバルは1週間に渡って開催され、あちらこちらの大小様々なステージでプロアマ多様なギグが繰り広げられ、フェスティバルを訪れる人は、4〜5万人にのぼっています。

この地域では伝統的にフィドル(ヴァイオリン)を中心とした民俗音楽の演奏が盛んで、およそ250年以上の歴史を持つとされるカウスティネン地域の民俗音楽ヴァイオリンと、それに関連する風習や表現が2020年春にユネスコの無形世界遺産にノミネートされるなど、地域特有の伝統文化として大切にされています。


フィンランドの民俗音楽の奏者はPelimanni「ペリマンニ」と呼ばれ、valssi(ヴァルッシ=ワルツ)やpolkka(ポルッカ=ポルカ)polska(ポルスカ)といったダンスの曲やmarssi(マルッシ=マーチ)などを、フィドルを中心に、足踏みオルガン、アコーディオン、ベース、ギター、管楽器、カンテレなどで奏でます。


カウスティネン出身のペリマンニ、Konsta Jylhäコンスタ・ユルハ(1910-1984)はまだ少年の頃から地元のカフェや結婚式での演奏に加わり、長じてからはトラック運転手の職業の傍ら音楽を続けていましたが、大きな事故をきっかけに、音楽に専念することになります。1964年に初めての自作曲を発表し、以来生涯で70曲のペリマンニ曲、50曲の宗教曲を作曲したそうです。メロディアスで哀愁を帯びたコンスタ・ユルハの音楽はカウスティネンのみならず全国的にたいへんな人気となります。1968年に始まったカウスティネン・フォークミュージック・フェスティバルにも、コンスタ・ユルハの演奏を聴きたい人が大勢集まり、フィンランドにおけるフォーク・リバイバルに大きく貢献しました。


私がカウスティネンを初めて訪れたのは1994年の2月でした。Kansanmusiikkiinstituutti(フォークミュージック・インスティテュート)に2週間毎日通ってフィンランドの民族楽器カンテレとフィンランドのフォークミュージックを教わりました。

  左) ペリマンニ・タロの入口にて (1994年2月)

  中) カウスティネンの夕焼け (1994年2月)

  右) タッラリの皆さん、マスターペリマンニの方々と (1994年2月)

「どうして夏に来ないの?」と会う人会う人に言われながら、人の少ない静かなカウスティネンで、雪と氷点下20度の寒さの中、ペリマンニ・タロ(ペリマンニの家)と呼ばれる木造の古い大きな農家を移築した建物に通って、カンテレ奏者でミュージシャン、研究家のHannu Saha(ハンヌ・サハ)にカンテレを教わり、フォークミュージック・バンドTallariタッラリ(当時のメンバーは、Antti Hosioja,Ritva Talvitie, Risto Hotakainen, Timo Valo,そしてカンテレのAnna-Maija Kaljalainen)の演奏を間近に聴くのは、ほんとうに幸せで特別な日々でした。Tallariは当時、コンスタ・ユルハの曲を集めたアルバムを制作したところで、コンスタ・ユルハの曲もたくさん聴くことができました。

耳から曲を覚えて弾いていくフォークミュージック・スタイルのレッスンの楽しさと、ペリマンニ・タロで出会った人々の素晴らしい音楽とおおらかな優しさは、ほんとうに宝物のような経験で、それからの私の人生に大きく影響したと思っています。


さて、今年のカウスティネン・フォークミュージック・フェスティバルは実際の開催は見送られ、オンラインで7月13日から19日の1週間、VirtuaaliKaustinen 2020ヴァーチャル・カウスティネン2020として開催されました。

動画でのペリマンニ・プログラム参加の案内が届いて、今年のフェスティバルに行くのを楽しみにしていた、私と嵯峨治彦さん(馬頭琴・喉歌)のデュオRAUMA(ラウマ)と、カンテレと歌のグループSalmiakki(サルミアッキ)は演奏動画を撮影し、ヴァーチャル・カウスティネンに参加することにしました。


オンラインでの開催といってもいったいどのような内容なのか、事前にサイトを見てもあまり具体的にはわからなくて、わからないままにワクワク心待ちにしていたのですけれど、いざ始まってみると、そのコンテンツの豊富さと内容の濃さにびっくり。オンライン・フェスティバルの企画運営サイドとミュージシャン、そして視聴者の、カウスティネンへの愛着が溢れる、温かく素晴らしいフェスティバルでした。

この週は、私はもともと予定をあけていたこともあり、フェスティバル・ウィークのつもりでなるべく用事を入れずにいたのですが、毎日のハイライトである夜のコンサートが深夜1:00からと遅すぎて観られなかったことをはじめ、フィンランド・フォークミュージックが次々かかるラジオも楽しく(ラジオは期間中で終了。)、ワークショップは盛りだくさんで、ペリマンニ・プログラムは連日とても量が多く、あまりにもコンテンツが豊富でとても期間中に消化しきれませんでした。


フェスティバルのサイトは7月いっぱい公開されていて、その後も動画の多くはYOUTUBEで見られるようです。


私自身も、この原稿を書いている今も、リアルタイムには追いつけなかった分のヴァーチャル・カウスティネンのワークショップをあと追いで楽しんでいるのですが、これからご覧になる方のために、ヴァーチャル・カウスティネンのサイトに沿って、内容を少しご案内させていただきますね。


サイトの奥へ奥へと入り込む仕組みなのですが、慣れると大丈夫。ほとんどがフィンランド語で話されますが、せっかくなのでフィンランド語の響きもお楽しみいただければと思います。


カウスティネン・フォークミュージック・フェスティバルのサイト


サイトは、フィンランド語、英語、スウェーデン語で表記されています。

サイトの最初には、フェスティバルのプログラム・ディレクターのAnne-Mari Hakamäki(アンネ-マリ・ハカマキ)の「朝の挨拶」の動画があります。毎朝10:00(日本時間16:00)カウスティネンの風景とともに朝の挨拶aamutervehdysを届けてくれました。美しい風景と温かな親しみやすい語り口が素敵でした。終了後のいまサイトに残っているのは、最終日、日曜日の参加者への謝意とその日配信されたワークショップの案内などで、この日はアンネ=マリが最後に歌も歌います。ちなみに、動画スタート前の画面に見えるのは、カウスティネン出身のカンテレ奏者Kreeta Haapasalo(クレータ・ハーパサロ、1815-1893)の像です。

それまでの毎日の朝の挨拶も、YOUTUBEのKaustinenFMF のチャンネルで見られます。


さて、フェスティバル・サイトの次の項目は、毎日のメイン・プログラム、カウスティネンゆかりのよりすぐりのアーティストによる「夜のコンサート」Iltakonsertit=Evening Concertsです。各コンサートは1時間前後です。ぜひぜひご覧いただければと思います。


ピンクに白抜きのEvening Concerts をクリックして進むと、トップにある動画は、最終日日曜日に公開された、マスター・ペリマンニMauno Järvelä(マウノ・ヤルヴェラ)と、フォークバンドTallari(タッラリ)によるワークショップ。来年のフェスティバルで一緒に演奏できるように、と、4曲の美しいペリマンニ曲をゆっくり指導してくれています。ミュージシャンの方はもちろん、演奏されない方も楽しめると思います。

長年カウスティネンに隣接するヤルヴェラ村とカウスティネンを拠点に音楽家として音楽教育者として多大な貢献をしてきたマウノさんは、フェスティバルを通じて大きくフィーチャーされていたように感じました。

■Yhteissoitto 19.7.2020 Mauno Järvelän ja Tallarin johdolla


月曜日から土曜日の分のコンサートは、ピンクの三本線マークをクリックすると曜日が表示されそこから進むことができます。


■7月13日(月) Kaustislainen avajaiskonsertti

オープニング・コンサート。マスター・ペリマンニたちによる、カウスティネンらしい、伝統的な、優雅なペリマンニ曲が楽しめます。


■7月14日(火) Shamaaniviulisti Tuomas Rounakari Pauanteella

シャーマン・ヴァイオリンのTuomas

Ruonakari(トゥオマス・ルオナカリ)の演奏。スピリチュアルな独特なヴァイオリンを、シャーマンの太鼓の代わりに足首に着けた鈴の音とともに。


■7月15日(水) Siltatanssit Penttilän sillalla

橋の上で、Tero Hyväluoma(テロ・ヒュヴァルオマ、フィドル)とMatias Tyni(マティアス・トュニ、足踏みオルガン)の軽快な演奏に合わせて踊るフォークダンス。なんともチャーミング。


■7月16日(木) Konsta Jylhä -konsertti

前述の、カウスティネン出身の伝説的フィドラー、コンスタ・ユルハの曲を現代のペリマンニたちが演奏するコンサート。コンスタ・ユルハ・コンペティションの歴代優勝者などによる新鮮な演奏に、作曲家としてのコンスタ・ユルハの魅力もあらためて浮かび上がります。ぜひご覧いただきたいコンサートのひとつ。

そして、コンスタ・ユルハの曲は、フェスティバルを通じてたくさん演奏されていました。


■7月17日(金) Bill Hota & Haka, Kaustinen 2020 spesiaali

南オストロボスニアの歌ものフォーク。陽気なバンド演奏が楽しめます。


■7月18日(土) JPP -Toivekonsertti

カウスティネンの伝説的バンドJPP(イェーペーペー)によるコンサート。ヤルヴェラ・ファミリーを中心に1982年に結成され、それまでのペリマンニ音楽とは一線を画したひとひねりしたサウンドとスタイリッシュな演奏でフィンランド・フォークミュージックの新しいムーヴメントの中心となってきたJPP。ベテランの風格とバンドの一体感、うねりと疾走感溢れる演奏が圧巻です!


夜のコンサートは、全てYOUTUBEのKaustinenFMFチャンネルで見られます。

https://www.youtube.com/user/KaustinenFMF


さて、コンサートの次は、子供向けプログラム。こちらもピンクに白抜き文字をクリックして進みます。歌のお兄さん、お姉さん的なミュージシャンによる楽しい演奏や遊び歌、子供が演奏している動画が上がっています。


+++++++++++++++++++

さて、次は、ペリマンニ・プログラムPelimanni Ohjelma , Fiddler's Program カウスティネンのフェスティバルで演奏できない代わりに動画で寄せられたプロやアマチュアのペリマンニによるヴァーチャル・カウスティネンのための演奏が、日毎にアップロードされました。ペリマンニ・プログラムのために新しく撮影された動画は350本、トータル46時間47分にも及んだそうです。


ピンクに白抜き文字をクリックし、ピンクの三本線の詳細をクリックすると、月[MA/MON]から土[LA/SAT/LÖR]の曜日が表示され、その日の動画がずらずらと並びます。画面から選ぶこともできます。また、全てのパフォーマーをここで見られます、というピンクのhereをクリックすると、その日の全ての動画が連続再生されます。パフォーマーの名前はAZをクリックするとアルファベット順の一覧[ESIINTYJÄT A-Ö / PERFORMERS A-Ö / UPPTRÄDARNA A-Ö]があります。

マスター・ペリマンニの演奏も、アマチュアの演奏も子供たちのかわいい動画もあり、ダンスも様々。数分のものから1時間超のものまで、ヴァラエティに富んだ動画がありますのでお好みでお楽しみください。楽しそうに演奏する表情や、フィンランドの風景や部屋も楽しく、そして、多くの人が音楽を楽しんでいることにも心が踊ります。

ちなみにRAUMAは月曜と火曜に各10分ほど、サルミアッキは土曜に10分ほど登場しています。ペリマンニ・プログラムは、登録者が削除しなければYOUTUBE上に残っているはずです。

■RAUMA:Jepuan Marssi, Deep Ocean 

■RAUMA:Khaalga,Night Flower

■Salmiakki , VirtuaaliKaustinen 2020


+++++++++++++++++++

そして、次は、Työpajat =Workshop ワークショップ。フォークミュージック、フォークダンスのお好きな方は、ぜひ。子供向けのワークショップ、フォークダンスのステップ、柳を使った笛の制作、音楽ワークショップ、と盛りだくさんです。

英語で見られるものでは、マンドリンによるエストニアのワルツ、スウェーデンのウップランドのポルスカ、フィンランドのシンガーソングライターVilma Talvitie(ヴィルマ・タルヴィティエ)による、カレリアに伝わる花嫁を泣かせる歌のワークショップ動画があります。花嫁が泣くシチュエーションの伝統歌は多くあるのですが、花嫁を泣かせるのは、そのときに泣かなければそのあと一生泣くことになるから、という言い伝えがあるからなのだとか。Emmi Kuittunenによる泣き歌の紹介も興味深い。


ワークショップの動画は、YOUTUBEのKaustinenFMF あるいはKuluttuuriSaloのチャンネルで今後も見られます。


やれやれ、フェスティバルの豊富な内容につられて、ついご紹介が長くなりました。ヴァーチャル・カウスティネン、そしてフィンランドのフォークミュージックをお楽しみいただくきっかけになれば幸いです。


なお、カンテレ仲間のこうのちえさんが、virtuaalikaustinenの各詳細への直接のアクセスを、ブログでとてもわかりやすくまとめてくれています。

ヴァーチャル・カウスティネン 2020

http://kieltenkaiku.blog.fc2.com/blog-entry-172.html?sp


ヴァーチャル・カウスティネンで、カウスティネンの音楽と、カウスティネンの音楽を愛するペリマンニたちの心意気に触れて、私もカウスティネンへの思いが更に募りました。

来年のフェスティバルは、無事に開催されますように!そして、リアルでの参加が叶いますように!


bottom of page