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#16 サーメランドの夏至

太古より ノルウェー、フィンランド、スウェーデン、ロシアにまたがる、最北端の地域で暮らす先住民族「サーミ」。夏至の日を特別に祝うという風習はありませんが、このエリアの夏至の日は1日中太陽が沈まず、自然と神と繋がる特別な日です。


1970-80年代サーミのトナカイ移牧の人々と暮らし、生活様式の転換期をリアルに撮影してこられた フォトジャーナリストの 津田孝二さん

このイベントの為に、夏至時期のサーミの暮らしの秘蔵写真をご提供頂きました。

サーミの人々の暮らし方は大きく変化ましたが、原風景は今も変わらないそうです。

2時間近くの電話インタビューだけでは伝えきれない、当時の様子の一部をご紹介させて頂きます。


■土とコケを積み上げた 夏の小屋「ガンメ」

この時期にトナカイ放牧の拠点として、山で過ごす時に使われる土と苔で作られた小屋。今はほとんど使われなくなった。10年くらい長持ちする頑丈なもので、雨露をしのぐのが目的。日中に男たちがトナカイ移牧に出かけた後、女性は皮を鞣したりして生計を立てる。

また自動車道の近くでは、ガンメでの生活を観光客に見せることもある。


■夏のトナカイ捕獲

この雪のない時期のトナカイ移牧も夏の日常風景。

ラッソ(投げ縄)で、必要な時だけトナカイの捕獲する。現金収入が必要な時、混じり込んでしまったトナカイの仕分け作業、トナカイの健康管理、日々の食事用と縄をかける。昔は麻紐などを編んで作っていたが、この頃からナイロン製が使われはじめた。写真を撮影すると、光に反射した紐が白光して見えて勇ましさが伝わる。冬場の投げ縄は足に掛けて雪の上に倒すが、この時期の夏には角に掛けて身体を傷つけない様にするなど、豊富な経験が必要。


■雪の残る雄大な大地

山岳地帯にはまだ少し雪は残るが、平地部は草と花に覆われる。

当時 馬を飼うことが流行し、豊かさの象徴だった。


■岩だらけのツンドラ地帯

ここは数百万年も前 氷河に覆われていたであろう 内陸部のツンドラ地帯。

岩だらけの山が永遠に広がっている様に感じる。昼夜の寒暖差が大きく、夏の日中は30度を超えることもある。殺伐とした風景の中では、人間の本能で 動くものを探そうとしてしまうそうで、時折岩からきつねが顔を出したり、ライチョウが飛んできたりと命を感じる場所。この岩場の先には、氷河が台地状の大地を抉り取った岩肌が500メートル以上もの落差をもって鋭く落ちるフィヨルド地帯になる。


■白いワタスゲが広がる草原

日本の高山や寒地に見られるワタスゲはこの時期白い綿毛を付ける。これもサーメランドの夏至の原風景。朝霧の靄はまるで絵画の様に美しい。川辺の小さな木製のボートは 魚釣りやトナカイの肉を運んだり、彼らの生活に密着したもの。少し暖かくなると 蚊が大発生する。

またこの時期使われはじめたスノースクーターは、夏場は無用になるためワタスゲの中に無造作に置かれていている。これも短い夏よく見かける光景。


■水平線の太陽

「薄暮」とも呼ばれる夏至の夜は 太陽は沈まず、ゆっくり北の海岸線をゆっくり水平移動する。この淡い色合いは 夏のオーロラの様。津田さんが大好きな夏の夜の景色。

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